★今年の文学新人賞を受賞、アイスランド産ファンタジー小説『カラスの目』紹介
2012.11.27 Tuesday 19:13
今回のブログはここの所続いた音楽フェスの話題から離れて、
アイスランド国内の文学賞で2012の新人賞を受賞した
『Hrafnsauga』をご紹介します。
一枚目の写真は著者の一人Snaebjyorn Brynjarsson(以下、スナイ君)。
偶然、シバノが帰国直前に彼の処女作が出版され、さらに新人賞まで
受賞したというので、一緒に本屋に行った際に色々と話を聞いてきました。
ちなみに、この本はKjartan Yngvi Björnssonさんとの共同執筆。
二人は10代の頃からの友人で、今回の本はそれぞれがパート分け
して書いた章を最終的にお互いが校正しあって一つの本として整合性
をとるような形で作業したとの事。
個人的に『ロード・オブ・ザ・リング』をはじめとするファンタジーは
ゲーム・小説とジャンルを問わず好きなので、アイスランド産の
純ファンタジー小説ときいてとても興味があったので、ぜひご紹介
したいなと。
今回はスナイ君一人のインタビュー。
まず、タイトルの『Hrafnsauga』は直訳で『カラスの目』。
Hrafn=カラス
s=の
auga=目
との事。それに副題の『3つの世界の物語』がついてます。
表紙の装丁に描かれたキメラっぽいのはラスボスでしょうか…。
小説のあらすじは−
その昔、この世界で大きな魔法戦争があり多くの犠牲が出た。
それ以来、魔法は禁止され、それから数百年…。
辺境の村に住む出生のわからない少年ラグナルは、村の人たちに
育てられ幼馴染のシリアやブレッキと平穏な日々を送っていた。
しかし、彼は生まれつき魔法を操る力を宿しており、
禁忌の術ゆえ村人には知られぬようその力を封じて過ごしている。
そんなある日、村は突如現れた魔物に襲われ壊滅してしまう。
命がけで逃げ出したラグナル達は、災厄の原因を突き止めるため
長い旅に出たのであった。
すみません…つたない要約で著者に大変申し訳ないのですが、
導入はこのような雰囲気のようです♪さらに、『3つの世界』という
サブタイトルの通り、そのあたりが物語に深く関わってくるとの事。
もともと欧米産のファンタジーに影響を強く受けた和製RPGの
「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」に慣れ親しんだ
日本人ならとてもなじみ深い冒頭ですよね〜。
しかも、キャラクターの設定をもう少し詳しくきいたところ
・ラグナル(主人公・男性)禁止された魔法の力を生まれながらに使える。
自分に自信がなく、シャイな人物。生い立ちのせいかあまり人に優しく
なれない所も。
・シリア(女性)主人公の幼馴染、彼女の祖父は村の自警団のリーダー。
・ブレッキ(男性)主人公の幼馴染、にぎやかなムードメーカー。
弓の扱いに長けている。
さらに、もう一人一緒に冒険する事になる仲間が
・ナヌーク(流れ者)呪いをかけられたせいで自分の意思とは関係なく
熊の姿になってしまう事がある。ある事をきっかけにラグナル達に
同行する事に。
うーん、ゲームズキには痺れる設定♪
魔法で世界が滅ぶあたりはFF6かなーとか、主人公たちの恋愛模様
とかはあまり描かれなくて、冒険譚として描いていると聞くとFF3っぽいの
かなーとか(ゲームやってない人すみません)。
後は、主人公の使う魔法が少し変わってまして、
そのあたりも小説を読むうえでは展開が気になりそう。
ここまで、きくと和製RPGや指輪物語、ハリー・ポッター等々、
日本で触れられるファンタジーは多数あるので設定そのものは
慣れしたしんだ印象もありますが、この後スナイ君が語った事が
この小説のオリジナリティというか、肝のようです。
こちら、本の表紙扉を開けた所には主人公たちが
冒険する世界の地図が丁寧に描かれてます。
この地図に表記されている町や山、川、滝など全て著者の創作
なのですが、とてもアイスランドらしい響きの単語で書かれてるんですね。
例えば町の名前なら、〜ヴィク(現実にはレイキャヴィク)とか〜フョルズル
(現実にはイーサフョルズル)等、また滝は〜フォス(現実にはスコゥガフォス)等々。
もともとこの本を書くきっかけは、「アイスランドには古くから伝わるサガ(神話)が
あるし、今でも各地にはいろんな言い伝えが残っているのに、アイスランドらしい
世界観を持った現代に書かれたファンタジー小説がない」という所に着目して、
アイスランドの土地や伝説をベースにという部分を大事にして執筆したそう。
実際にアイスランドの自然エリアへ足をのばしてみるといまだにそういう伝説が
生きていそうな事を感じられる手つかずで荒々しい大自然が大半を占めている国。
※国際空港ケフラヴィクすぐ近く。首都からも40分ほどでこんな風景が広がる。with Kristin
日本にも伝記や妖怪の話などはたくさん残ってますが、開発されてしまった
場所が多く、大昔からの伝説をそのままに感じられる場所って随分少ないか
身近な生活圏には無かったりしますよね。
アイスランドの首都レイキャヴィクは中心街から車で30分ほど走れば
そういう伝説を感じられるような土地になってしまうし、だいたいレイキャヴィクに
いても港の対岸に伝説が残る『エイシャ山』がいつも見えるので、東京に比べたら
ぐっとそういった自然が身近にある首都だと思われます。
※首都中心街から、対岸にあるエイシャ山を臨む。
この本が原作の
映画がもし仮に制作される事になったら、
CGに頼らずとも大半が今もある自然を使って撮影出来そうな。
こんな大自然を身近に感じながら生活しているスナイ君達が
書いた小説は、ファンタジーといえどもどこかリアリティがあって、
説得力があるのでは…?と、何度もアイスランドに足を運んでいる
自分でも、今回の話を聞くとあらためて自然エリアの風景が
ファンタジーの舞台のように感じられた次第。
※前日にあった新人賞の授賞式の様子が新聞の記事に。
と、ここまで紹介しておいて日本の皆様には大変残念なお知らせが。
この小説、全篇アイスランド語で書かれている為、
「是非読んでね!」とか気軽に言えないし、シバノも
読めないので感想らしい感想が書けないのでした。
アイスランドの人はとても英語が堪能なので、
「多くの人に読んでもらうには、最初から英語で書いては?」と
聞いてみたものの、約32万人の小国だからこそオリジナルの
言語はとても大事に思っているらしく、まずはアイスランド語ありきで
書くことに意味があると。
確かに、最初から英語で書いてしまったらアイスランドのサガや土地の
名前や人の名前などアイスランドならではの言葉の響きとか、確かに
この小説が大事にしている部分が薄れてしまいますよね。
※インタビューした本屋Eymundsson。音楽フェス中には会場にもなる。
アイスランド語の本は英訳されるよりも、ドイツ語版や
デンマーク語版に翻訳される機会が比較的多いとの事。
てっきり、英訳版がアイスランド語版の次の選択肢としては
一般的なのかと思っていたので意外に思いました。
「それにしても、2012の新人賞受賞はめでたい!素晴らしいね!」と
お祝いの言葉を言うと、「アイスランドで一年に出版される新刊は少ないから…」と
とても謙遜していたスナイ君ですが、それでも処女作が賞をとるのは素晴らしい♪
スナイ君自身も、今年の夏まで一年東京に留学してますし、
ご本人の翻訳での日本語訳版が出れば一番ベストですが…。
東京にも早稲田大学にはアイスランド語の授業がありますし、
そのあたりの学生さんの誰かが本格的にこの本の翻訳をして、
日本語でも読めるようになる事を願いつつ(他人まかせ)。
ゆくゆくは、ゲーム版を原作アイスランド・制作日本で
ファンタジーRPG出たら愉快だなあとか妄想は膨らみます。
ちなみに、同じ世界観で続編の予定は?という質問には「あるとの事」。
ハリー・ポッターやナルニア物語みたいに7冊とかになるの?という
質問には「そんなに長くならない」とスナイ君。
いち、アイスランド好き・ファンタジーファンとして読めるのを楽しみにしてます。
あ、あとアイスランドならではのモノだと思うので、
これから行かれる旅行者の方は是非記念のお土産にも♪
余談その1。
アイスランドでファンタジー小説を書く人がいないわけではないらしく、
平積みされている小説の中にもファンタジー小説がありました。
ただ、こちらは特に「アイスランドらしい」わけでは無いとの事。
なるほど、アイスランド好きなら「カラスの目」というわけですね。
果てしなく余談その2。
現在、絶賛?プレイ中の『ドラゴンクエスト10』ですが、
先日行ったエリアが大変アイスランドらしい雰囲気で…。
思わず、アイスランドの溶岩地帯に行ったつもりでゲーム内記念撮影。
脱線してすみません…、まぁファンタジーつながりという事で♪
★アイスランド発の小説という事で、アーナルデュル・インドリダソン作『湿地』を
遅ればせながら、読んでみようかと思っております。ミステリー好きだし楽しみ♪
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